しろくまBL部

腐女子のBL覚書

『まことしやかに舞う花は』(作者:束原さき)

   

この気持ちは誰にも知られてはならない。だからせめてお前を想って踊ろう。
昭和16年。留学帰りの御曹司・颯太朗(そうたろう)には、ずっと気がかりだった
ことがあった。それは、子どもの頃、幼なじみで踊り手の春臣(はるおみ)に
「お前の踊りなんか嫌いだ」と言ってしまったこと。ちょっとした意地から
だったが、あの時のことを謝ろうと春臣を訪ねるも、頑なに避けられてしまう。
それには別の理由があるようで…。好きな人と結ばれることが難しかった時代。
必死に恋心を隠す、幼なじみ再会・恋愛譚。

 

戦争が背景にある時代物作品は

それだけで苦しい気持ちになるんですが、

戦争以外にも春臣と颯太朗の想いを阻む事柄がたくさんあって、

なかなか思うように気持ちが伝わらないのが物悲しかったですが、

とてもきれいな物語でございました。

束原さき先生の繊細で柔らかい絵に、

2人の純粋さや清らかさがにじみ出ていました。

近づきたいけど近づけない。見つめていたいけど許されない。

戦争期の日本、同性愛が受け入れ難い時代において、

お互いを想う気持ちを心に押し込める春臣と颯太朗。

ただ相手の幸せを願い、身を引くことが善と思う。

 

本当は想い合っているのに好きだと告げられず、

離れてしまう2人の気持ちのやりとりに胸が痛みました。

見つめる視線に、

思いっ切りの「好き」が溢れているのに伝わらない。

というか、伝えられない。

だって良家のお坊ちゃんである颯太朗には許嫁がいるから。

ちゃんとした家柄のお嬢さんと結婚して家を継ぐ。

日本男児たるものお国のために精進せねばならん時代です。

そんな颯太朗の人生を邪魔してはならないと思う春臣なのです。

 

片や颯太朗は、女形の踊り手である春臣に恋をしていました。

2人は幼馴染で、

小さい頃から春臣の踊りを見るのが好きだった颯太朗は、

踊り終わった春臣に ”可愛かったよ” と満面の笑みで歩み寄り、

小さなかんざしをプレゼントしました。

その後ドイツ留学のため、しばらく日本を離れた颯太朗ですが、

帰国後、速攻春臣の踊りを見に行きます。

あの頃以上に春臣に魅せられる颯太朗。

しかも、プレゼントしたかんざしを春臣がまだ持っていた!

”ズクン” と疼く胸の高鳴りに、

言いようのないときめきを噛みしめる颯太朗なのです。

 

そんな2人の叶わない恋心に、

愛しさと切なさを抱えながら読み進めていきますと、

もしかしたら?と思ってたけど、

想像すると辛いから考えないようにしてた展開が訪れます。

颯太朗に「赤紙」が…。

戦争が永遠に2人を遠ざけようとします。

 

”行かないで!”

春臣の足は颯太朗の元へ駆け出していました。

今、言わなきゃ。

今、抱き締めなきゃ。今こそ離しちゃいけない!

ここにきてようやく繋がった2人の想い。

ようやくしっかりと抱き締め合えたのに戦争は待ってくれなくて…。

 

終戦を迎えた日本。

何隻も帰ってくる引き上げ船の中に颯太朗の姿はありません。

”必ず帰るから一緒に生きよう” と約束したのに…。

世の中が戦争の傷から前を向いて進み始めている中、

一人泣き暮らす春臣。

颯太朗が帰ってくる夢を見ては飛び起きて、隣に居ない現実に泣く。

 

そんな春臣を立ち直らせてくれたのは、やはり踊りでした。

颯太朗が大好きだった踊りを踊ろうと。

戦争で傷ついた人たちを慰問しながら踊り続ける春臣。

すると ”春” と呼ぶ声が。

見ると、松葉杖をつきながら歩いてくる颯太朗の姿が!

くず折れる春臣をぎゅっと抱きしめ、

”やっと帰って来れた、春のところに” と囁く颯太朗。

 

颯太朗にしがみついて泣く春臣の姿に号泣したのは言うまでもないです。

頭のどこかで帰ってくるでしょとは思っていましたけども、

無事で良かったと思ったのと、

春臣の「絶望と希望」がない交ぜになった気持ちを抱えて

過ごしてきた日々を思うと号泣せずにはいられませんでした。

本当に良かった(T^T)

 

その後、結ばれた2人のシーンがさらっと描かれていました。

この作品にはこのエロがちょうど良い塩梅。

2人がやっと結ばれた喜びやら嬉しさやらで胸が熱くなりました。

 

戦争という時代背景だからこそツンとくるエロをもう一つだけ。

それは「ふんどし」

この時代にパンツなんてありませんので男児は皆ふんどしです。

春臣と颯太朗が水浴びするシーンがあって、

春臣の水に濡れたシャツから透けるふんどしがエロいんです(^^)

颯太朗もドキッとしてましたけど、

わたしもふんどしに初めて萌えを覚えました。