しろくまBL部

腐女子のBL覚書

『ヘブンリーホームシック』(作者:京山あつき)

     

「ねぇ、オレらゲイなの?」
イギリスで再会した元同級生の太田(おおた)と行貞(ゆきさだ)。
ホームシックで参っていた2人は足を絡め、腕を抱き、ひざ枕を許したり…。
その行為はしだいに心も侵食し、互いに離れがたい存在になっていた。
ある夜、ベッドですり寄って来る行貞にたまらなく愛しさがこみ上げた
太田は、強引にキスをして、衝動のまま欲望を押し付けるのだが…。

 

京山先生の作品はパァーっとした派手さはないんだけど、

じわじわと心にしみます。

絵も地味な方に分類される感じですが、とても味わい深い。

例えるなら、

田舎のおばあちゃんが作ってくれる煮物。

素朴なんだけど、味がしゅんで美味い!(^^)

 

この作品に登場する太田と行貞も、

一見したらそこら辺のモブ扱いされそうな2人で、

地味で素朴ですが、この物語の主役たちでございます。

この2人が寄り添い肩を寄せ合う様に、

なんとも胸が切な痛く、きゅんきゅんするのです。

 

仕事で海外に異動になって、

何から何まで日本と違う異国の地イギリスで、

完全なるホームシックに陥っている太田が

たまたま出会った日本人がなんと元同級生の行貞でした。

ひしっ!と抱き合って喜ぶ2人。

太田は積もりに積もった淋しさや悲しさや辛さや切なさを

行貞にぶつけました。ポロポロポロポロ涙と共に溢れ落ちます。

”イギリス英語は早口すぎて何言ってっかわからんし”

”メシはマズイし、知り合いはいないし”

”アジア人だと唾かけられるし”

”空はいつだってどんより曇ってるし…”

”会社クビになったっていいから、今すぐ日本に帰りたい!”

そう言って肩を震わせる太田に行貞は、

”こたつでミカン食べたいなぁ”

”あと鍋したいな~すき焼きとか♪” と笑いかけます。

すると、つられて太田も ”オレはおでんが食べたい!” と笑顔に。

 

いつの間にか2人は、

毎日のように太田の家で寝食を共にするようになります。

炊飯器で白米炊いてふりかけかけて食べたり、

うどん買ってたまご落として食べたり、

高い牛肉買ってすき焼きしたり。

泣きながら一人寝するんじゃなくて、一緒の布団で並んで眠る。

この時間、この空間だけはひとりじゃない。この嬉しさよ!(^^)

 

やがて2人はキスをしてセッ〇スをします。

自分はゲイなのか?

ただホームシックで淋しいから繋がりたかったのか?

何でこんなことをしてるのかまったくわからない…。

おそらく俺たちは、たぶんきっと正気じゃない。

だけど、ここは日本じゃないから。

だから、ちょっとおかしいぐらいがちょうどいい。

そう言って2人はぎゅっと抱き合います。

 

そしてやってきた夏休み休暇。

2人は一緒に日本へ帰国することに。

久しぶりの日本でうれしいはずなのに、

なぜか2人の心には一抹の不安が…。

イギリスでの出来事がすべて帳消しになるのでは…。

まるで夢から覚めたように全部チャラになるのでは…。

友達に会って家族の顔を見たら、

お互いの「淋しさ」の魔法がとけて急に冷めたりするのでは…と。

 

しかし、そんなことは杞憂でした。

日本に帰って3日も経たずして2人は、

会いたくて会いたくて、くっつきたくてくっつきたくて、

1分1秒たりとも離れたくなくて、

ホテルでぎゅーっと抱き締め合います。

”オレらバカップルすぎる(笑)” と言いながら(^^)

 

最初は、

異国の地での一人の淋しさを癒すためだったかもしれないけれど、

2人で一緒に過ごす時間は、

いつの間にかかけがいのない時になっていて、

いつの間にかかけがいのない2人になっていました。

 

「ふるさとの 訛なつかし停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく」

太田と行貞が、

”この気持ちがすごく良くわかる” と言っていた石川啄木の短歌です。

故郷の訛りが恋しくて、

それを聴きたくて駅の人ごみの中にまぎれに行くんだ、という意味。

これをあとがきのおまけエピソードに載せてきているところが、

京山あつき先生ならではの胸キュンポイント!

 

地味なんですけど、心がぽわっと幸せになる素敵な物語。

読後、

とりあえず無難に明日も頑張るか♪ と思わせてくれる作品です(^^)