生贄として森に捨てられた人間の子ども・太郎。
森の奥に住む狼のウルは、痩せた人間は美味しくないと言い、
太郎に美味しいご飯を食べさせ、きれいな洋服を着せ、怪我
の一つもしないように、大切に大切に育ててくれた。大きく
なったら大好きなウルに美味しく自分を食べほしいと願う
太郎だけど、いくつもの季節が廻った森のなかで二人は……。
”どうしてそんなに大きな手をしているの?”
”きみのからだをすっぽり包み込んでしまうためだよ”
”どうして耳が大きいの?”
”きみの声を漏らさず聞くためさ”
”どうして大きな口をしているの?”
”きみを食べてしまうためだよ!”
どっかの童話でこんなやり取りありましたよね(^^)
小石川あお先生のモフモフBL3連チャン。
『赤ずきんちゃん』を彷彿とさせる今作が、
いっちばんのお気に入りになりました!
3作全部通してですが、
小石川あお先生の描く少年が、まぁ~かわいい♪
純真無垢なその瞳。スラリとしたその体躯。
自分に自信がなくて弱そうなんだけど芯がある。
まだ大人じゃないけど、
でももう子どもじゃないという ”少年”。
小石川先生が描く、
このちょうどの儚いかわいさを持つ少年がまさに ”萌え”。
そして小石川作品にはもう一つのポイントが。
漏れなく ”切なさ&号泣” プラス!
胸キュンするのはマストなんですが、
胸がチクチクするような切なさに毎回心動かされて、
のち号泣に至るというルートをたどります。
案の定、今作もやはり涙をこらえることができませんでした(T^T)
森の奥に住む狼への生贄として、
たくさんの貢物と共に差し出された幼い太郎。
でも実は、家族から厄介者扱いされていた太郎は、
食いぶちが減ってちょうどいいと、体よく捨てられたのでした。
そしてやってきた、森の怪物と呼ばれる狼・ウル。
ウルは太郎をひょいと抱えあげると、
”軽い!細い!ぜんっぜん食べるとこない!!”
そう言って、ウルは太郎に食べ物を与え、
着る物を与え、勉強を教え、本を読み聞かせ、
デーブルマナーを憶えさせ、歌や踊りを教え、
あぶないことをすると叱り、そのあと必ずぎゅっと抱きしめ、
まるで愛してるみたいに、大切に大切に育てたのです。
太郎は聞きました。
”ウルはどうしてぼくにやさしくするの?”
”もちろんきみを食べてしまうためだよ、ガオ~♪”
おどけるウルは続けて言いました。
”下ごしらえみたいなものだよ。
たくさんの愛を注いだ方がおいしくなるの知らなかった?”
”でも、食べるのはきみが大人になってからね” と(^^)
ウルはとってもとってもやさしい狼なんです。
太郎を愛するとってもやさしい人狼なんです。
でも人の姿を生け贄の前に現すのは契りを交わすとき。
”だからきみに見られるわけにはいかない”
”太郎、きみはたくさんのことを学んで憶えて、
いっぱい食べてよく眠って、
いつか私のもとから逃げ出してだれよりも幸せになってほしいんだ”
やがて来るその日まで、
ウルは何よりも大切に太郎を育てます。
太郎が ”美味しく美味しくなる” その日まで。
そして太郎は少しずつ大人になっていきます。
森に一人で山菜や果物を採りに行けるようになりましたし、
夏、人魚の恋の季節には、
彼らの繁殖シーンを覗き見しました(^^)
声変わりもしましたし、
ウルとの冬ごもりで終始胸がドキドキして、
太郎の太郎がムクムクと起き上がることも覚えました(^^;
”大好きなウル。いつになったらぼくを食べてくれるの?”
数えきれないほどの春夏秋冬を過ごして、
また廻ってきた春。
ちいさな生け贄だった太郎がいつの間にかうつくしく成長し、
そのかぐわしい匂いに抵抗できなくなってきたウル。
次の発情期が来たら太郎をきずつけてしまうのではないか…。
いよいよ別れを決意したウルは、
”きみのことなんか愛していなかった
せっかく育てたのにいつまでたっても痩せていて
ちっともおいしくなさそうだし、何をするにも足手まといだ
出ていけ。そして二度と私の縄張りに足を踏み入れるな”
大粒の涙を流しながら太郎を突き放しました(T^T)
ウルの苦しみが痛いほど伝わった太郎は森を離れ、
山の麓の村で暮らし始めます。
心優しく教養豊かで、
ピアノも歌も上手な太郎は村の誰からも愛されました。
学校へ行き、友達ができ、あっという間に時が経ち、
太郎はもうすっかり大人になっていました。
待ってくれ、お別れENDかい?と、
悲しみの涙が流れそうになったんですが、
んふっ♪よかったぁ~再会です(TωT)
忽然と村から姿を消した太郎は、
ウルの住む森に帰ってきたんです!
自らの足で森に分け入り、静かにたたずむ太郎。
”捕まえた” と、大きな手が太郎を包みます。
振り返ると、大好きな大好きなウルが!
”どうしてそんなに大きな手をしているの?”
”きみのからだをすっぽり包み込んでしまうためだよ”
”どうして耳が大きいの?”
”きみの声を漏らさず聞くためさ”
”どうして大きな口をしているの?”
”きみを食べてしまうためだよ、私の花嫁♪”
”うん。食べてもいいよ♪ もう離さないでね、ずっと一緒だよ”
きれいな黄金色の瞳とやさしい声をしたおおかみ男が、
太郎をぎゅっと抱きしめていました(*´ω`*)
いい~お話でした。ほんとにいい~物語でした(TωT)
ほっこりしましたしね、清い涙を流せましたしね。
なんか汚れ切っていた魂がきれいに洗われたような気がします。
ちょっと例えが大きくなりますが、
ジブリのような世界観を感じました。
清い心を持っている太郎は、
森の精霊とか動物とか人魚なんかとお話ができるんです。
生き物、みんな友達みたいな(^^)
すごくやさしい世界で生きてるんですけど、
きれいなだけじゃないんだよってところをちゃんとウルが教えてる。
生きるために木の実を採ったり魚を釣ったり、
シカを捕ってきたら、血抜きとか皮を剥ぐなど太郎にさばかせたり、
バ~リボリと自分の鋭い牙で骨まで食べる様を見せたり。
自分たちも含め、
生き物が自然の大きな流れの一部なんだよってことを教えるんです。
ほんわかしたおとぎ話だけじゃない部分もあって、
それが非常に良かったなぁと思いました。
獣人BLってモフモフだけじゃない、
ケモノならではの悲しみみたいなのが漂ってますよね。
どこまでいっても分かり合えないケモノと人間みたいな。
だからこそ、
お互いを受け入れ合った時の喜びが大きくてうれしくて。
普通のBLにはない独特の世界がある人外BL。
けっこう長い人外BL祭りでしたが、
次回、切りの良い10作目の感想で、
一旦最終回にしようかなと思います~(^^)