愛を知らず、家族も居場所もなかった男。
ヒモ同然の生活で、女絡みのリンチを受け、気づくと見知らぬ男に
介抱されていた。「兄ちゃんに心配かけるなよ、護(まもる)」。
薫(かおる)と名乗る男は、なぜか自分を死んでしまった弟の護だと
思い込んでいるらしい!?戸惑いつつも薫と過ごす優しい時間で初め
て自分の居場所のある安らぎを感じ、偽りの弟のまま薫のそばに
いることを決意して…。
『マザーズ スピリット』で初めてエンゾウ作品に出会いまして、
良いラブをたくさん味わったと同時に、
クスっと笑えるコミカルさもあって、
時折、ウヘヘ♪と笑い声を出しながら楽しく読んだものです。
その流れで今作『ここはやさしい庭』にいきますと、
えっ!?同じ作家さんですか?と思うぐらい、
超~シリアス路線だったのでびっくりしました。
突然の弟の死で心が壊れてしまったお兄ちゃん・薫と、
愛を知らない孤独な男との身代わりラブといいましょうか。
暴行を受けて行き倒れているこの男を見つけた薫は、
”ここにいたのか。心配したぞ、護” と声をかけ、
ボロボロに傷ついた男を家に連れ帰り介抱します。
そして、”おかえり” と優しく抱きしめるんです。
翌朝、目を覚ました男は、
”おはよう” と言いながら朝ごはんを作る薫と目を合わせます。
”もう大丈夫なのか、護”
”あんまり無理するなよ、護”
”朝メシうまいだろ、護”
弟が死んだことを受け入れられず、俺を使って現実逃避。
目を逸らして、いい様に書き換えて、
俺の向こうに弟(護)を見ているこの男・薫。
狂ってる…可哀想なやつ…と思うのですが、
でも、それぐらい弟を愛して、
損得も対価もない純粋な愛を注ぐ薫を見て、
その愛情を自分も感じてみたいと思う男。
薫が注ぐ家族の愛というものを受けてみたいと。
そして男は ”おいしいよ、兄さん” と。
自分が薫の弟(護)になることを決めました。
始まりから病んでます、お兄さん。
護になったこの男も、
そんな薫を正すのではなく、そこに乗っかるというね。
共依存というのでしょうか。
偽兄弟を演じることで心の平穏を保とうとしている2人です。
途中で護を演じることがアホらしくなって、
家を飛び出す男なんですが、薫が一生懸命探すんですよ。
なりふり構ってられんって感じで必死になって探すの。
あやしすぎて警察に職質されるんだけど、
弟の特徴は?って聞かれて答えられないんですよ…。
護だけど護じゃないから。
こういうところで、
薫自身も本当は彼が護じゃないことを、
奥底では理解しているんだろうなと思ったりしました。
”だまってどこかへ行かないで…” と、
切なそうに懇願する薫を見て、
自分の向こうに弟を見ていても、
今、薫が求めているのは俺なんだと思うと、
どうしようもない嬉しさと喜びと愛を感じて、
心があったかくなる男なのです。
そしてこの心のあったかさが薫への「愛」だと気づくんです。
薫の愛を感じられるなら、俺は自分を捨てて護になる!
身代わりの愛に生きるのは辛いです(T_T)
心のどっかでは本当の自分を見て欲しいと思うから。
2人にハピエンの結末は訪れるのですか?と思いつつ読みましたが、
よかった、ちゃんと幸せな結末でございました。
薫自身がようやく弟の死を受け入れて、
これまで一緒に笑って泣いてケンカして、
ひとつ屋根の下いたのは弟の護ではなく「彼」だったと。
空っぽだった自分の心を埋めてくれたのは「彼」だったと気づいて、
ようやく本当の「彼」に心を向けるんです。
そこで初めて ”おまえの名前を知りたい!” と言うんですね。
”おまえを愛したいし、これからもずっと一緒にいたいから!” と。
そして、最後の最後でこの男の名前がわかります。
読んでても、
そういやこの男の名前知らんかったなと思いました。
ストーリー構成にちょっと感動を覚えた瞬間でした(^^)
エロはすべて後半に凝縮されております。
受けがお兄ちゃんの薫で、攻めが護(仮)。
受け攻め逆だという声もあるようですが、
わたしはこれでしっくりきましたな~。
シリアスですがとても優しい素敵な物語でした(^^)